2026年の金相場は、ジェットコースターのような1年になっています。
1月に史上最高値をつけた後、6月には3割近く下落。ところが8月に入ってから再び急騰し、GLD(SPDRゴールド・シェア)は8月21日に424.89ドルまで戻してきました。
「安全資産のはずなのに、なぜこんなに荒れるのか」
「今から買っても大丈夫なのか、それとも高値づかみか」
この記事では、その背景を初心者の方にも分かるように整理したうえで、ファンダメンタル・テクニカルの両面から今後のシナリオと具体的な売買ラインまで落とし込みます。
1. なぜ今、金の価格が上昇しているのか
まず2026年の値動きを振り返る
今年の金相場の「起伏」を押さえておきましょう。

| 時期 | 金スポット価格(概算) | GLD株価 | 出来事 |
|---|---|---|---|
| 2026年1月28〜29日 | 約5,590ドル(史上最高値) | 509.70ドル | 米・イラン緊張の極大化 |
| 2026年6月5日 | 約4,340ドル | - | 5月雇用統計が予想を大幅に上回る |
| 2026年6月24日 | 約3,970ドル | 363.32ドル | 米・イラン枠組み合意で地政学リスク後退 |
| 2026年8月21日 | 約4,600ドル | 423.36ドル | ドル安・財政不安で急反発 |
金は2026年1月28日に1オンス=5,589.38ドルという史上最高値をつけました。この日だけで300ドル以上上昇しており、背景には米国のイランへの軍事介入をめぐる緊張がありました。
ところがそこからが急落局面で、4〜6月期には約16%下落し、2013年4〜6月期以来となる最悪の四半期を記録しています。
下落局面の正体は「実質金利」だった
ここが今回の最重要ポイントです。金は利息も配当も生みません。
だから「金利が上がる」=「金を持つ機会費用が増える」=「金は売られる」という関係が成り立ちます。
2026年6月5日、5月の米雇用者数が予想8.5万人に対して17.2万人という強さを示すと、金は1日で3.27%下落し、年初来の上昇分をすべて失いました。
強すぎる労働市場は「FRBは利下げどころか利上げもあり得る」という連想につながります。
実際、ゴールドマン・サックスは2026年末の金価格予想を5,400ドルから4,900ドルへ引き下げ、その理由として「FRBが年内に利下げしない」との想定を挙げていました。
つまり4〜6月の下落は、金の構造的な需要が崩れたのではなく、FRB観測・実質金利・ドルという「金融の層」だけが一気に巻き戻された動きでした。
では8月の反発は何が起きたのか
8月の上昇要因は、大きく4つに整理できます。
- ① ドル安 8月21日時点でドル指数は3カ月ぶりの安値圏、米10年債利回りは約4.69%でした。
- ドルが弱くなると、ドル建ての金は米国外の投資家にとって割安になり、需要が改善します。
- ② 米国の財政・国債市場への不安 今回の上昇で特徴的なのは、単なる利下げ期待ではない点です。
- 米国債務への懸念、財務省による国債市場への介入、ドルの信認への不安が背景にあり、国債利回りが高止まりしているにもかかわらず金が買われています。
- 「金利が高いのに金が上がる」というのは、通貨そのものへの信頼が問われている局面で起きる典型的な現象です。
- ③ ETF資金の復活 7月には世界の現物裏付け金ETFに約30億ドルの資金が流入し、連続していた資金流出が止まりました。
- 4〜6月の下落局面ではETF売りが下押し要因だったので、この反転は意味が大きいです。
- ④ 中央銀行の買いが「床」を作っている ワールド・ゴールド・カウンシルの2026年中銀サーベイでは、準備資産の運用担当者の89%が今後12カ月で世界の中銀の金保有が増えると回答。
- 2026年上期にはポーランド、ウズベキスタン、中国、カザフスタンによる大きな買いが確認されています。</cite>この需要は価格に対して鈍感なので、相場の下限を支える役割を果たします。
要するに、1〜6月に剥がれ落ちたのは「投機と金融の層」、残っていたのは「中銀という構造の層」。8月は前者が戻ってきた局面、と理解すると腹落ちしやすいはずです。
2. GLDとは何か──「会社」ではなく「金庫」を買っている
ここで重要な注意点があります。GLDは企業の株式ではありません。
個別株のつもりで分析すると必ず的を外すので、仕組みを押さえておきましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | SPDR Gold Shares |
| ティッカー | GLD(NYSE Arca上場) |
| 設定日 | 2004年11月18日(米国初の現物金ETF) |
| 法的形態 | グランター・トラスト(信託) |
| 連動対象 | LBMA Gold Price PM(ドル/トロイオンス) |
| 運用方法 | 現物保有(パッシブ) |
| 経費率 | 年0.40% |
| 純資産総額 | 約1,500〜1,700億ドル規模 |
| 発行済口数 | 約3.77億口 |
| スポンサー | World Gold Trust Services LLC |
| 分配金 | なし(利回り0%) |
事業内容を一言でいえば、「ロンドンの金庫に金地金を保管し、その持ち分を証券化して売買できるようにしている」それだけです。
初心者の方が押さえておくべき特徴は3つあります。
1口 ≒ 金 約0.092オンス 設定当初は1口=0.10オンスでしたが、経費率0.40%が毎年金地金の売却で賄われるため、口当たりの金保有量は少しずつ目減りします。
20年超で約8%減った計算です。これが「持っているだけでじわじわ削れる」ETFのコストの正体です。
現物裏付けで、金は貸し出されない グランター・トラスト形式のため、受託者が金地金を貸し出すことはできません。
金鉱株ETFのような企業リスク・レバレッジリスクがない代わり、金価格が上がらなければリターンもゼロです。
GLDより安い選択肢もある 同じスポンサーのGLDM(経費率0.10%)やiSharesのIAU(0.25%)は、より低コストで同じ金価格に連動します。
GLDが選ばれるのは、出来高が桁違いに多く、スプレッドが極めて狭いからです。
8月21日の出来高は約1,452万口。短期売買や大口ならGLD、長期の積み立て的な保有ならGLDM──という使い分けが定石です。
日本の投資家であれば、東証上場の1326(SPDRゴールド・シェア)や1540(純金上場信託)という円建ての選択肢もあります。
GLDはドル建てなので、円ベースのリターンは「金価格 × ドル円」の二重の変動を受ける点は必ず意識してください(円安なら追い風、円高なら向かい風)。
NISA成長投資枠での取扱いは商品・証券会社によって異なるため、購入前に対象銘柄リストの確認を推奨します。
3. 今後の株価考察
3-1. ファンダメンタル分析
【重要】GLDにEPS・PERは存在しません。
利益を生まない資産なので、1株当たり利益もPERも計算できないのです。
「割安・割高」を株式と同じ物差しで測ることは原理的に不可能で、これは欠陥ではなく金という資産の性質です。
そこで、株式の「業績推移・収益性・財務状況」に相当する3点を、ETF版に読み替えて評価します。
① 業績推移 = 原資産(金価格)の推移
金は2024年に約27%、2025年に約64%上昇し、2026年1月に5,589ドルの最高値をつけました。
その後の調整を経て、8月時点で約4,600ドル。最高値からはまだ約18%低い水準にあります。
長期の上昇トレンドは崩れていませんが、「高値から3割下げる」ボラティリティを持つ資産だという事実は、初心者ほど直視すべきです。
② 収益性 = インカムゼロ、コストは確定
配当利回りは0.00%。保有しているだけで年0.40%が確実に差し引かれます。
つまり「年0.4%以上値上がりして初めてトントン」という構造です。株式や債券のようにインカムが下支えしてくれないため、金は本質的に「値上がり益ありき」の資産です。
その代替指標として実務で使われるのが、実質金利(名目金利−期待インフレ率)との逆相関です。
実質金利が低下すれば金の相対的な魅力が増し、上昇すれば減退する。この一点を追うだけで、金相場の8割は説明がつきます。
③ 財務状況 = 純資産と資金フロー
純資産総額は1,500億ドル超、発行済口数は約3.77億口。100%現物裏付けでレバレッジはゼロ、ファンド自体の財務リスクは実質ありません。
注目すべきは資金フローで、直近1カ月で約49億ドルの流入と、4〜6月の流出局面から明確に反転しています。
ファンダメンタルからの株価予想
PERが使えない以上、金融機関の目標株価を参考値として使うのが現実的です。主要行の2026年末の金価格予想は次のとおりです。
| 機関 | 2026年末予想 | GLD換算(×0.092) |
|---|---|---|
| モルガン・スタンレー | 約4,800ドル | 約442ドル |
| ゴールドマン・サックス | 4,900ドル | 約451ドル |
| J.P.モルガン | 5,000〜6,000ドル | 約460〜552ドル |
| UBS | 4,600ドル(2027年半ば5,200ドル) | 約423ドル |
| ワールド・ゴールド・カウンシル | 下期は4,100ドル±5%のレンジ | 約358〜396ドル |
主要行の予想は4,800〜5,500ドルに集中している一方ワールド・ゴールド・カウンシルは下期を4,100ドル前後のレンジ相場と見ています。
プロの間でもこれだけ見方が割れているという事実こそ、初心者が持ち帰るべき情報です。
判断:中立〜やや強気(打診買い水準) 中銀買いとETF資金流入という需要の土台は健在で、下値は堅い。
一方で、8月だけで15%上げた直後であり、上値追いのリスクは相応にあります。一括投資ではなく、分割での押し目狙いが妥当な局面と考えます。
3-2. テクニカル分析

チャート(日足・MA5/25/75)から読める情報を整理します。
① きれいなダブルボトム(二番底)が完成している
6月24日の安値363.32ドルと、7月17日の安値363.60ドル。ほぼ同じ価格で2度止まっているのは偶然ではなく、この水準に強い買い需要があることを意味します。
その間の戻り高値が7月7日の383.60ドル。ここがネックラインで、8月にこれを上抜けたことでダブルボトムが完成しました。
理論上の目標値は「383.60 +(383.60−363.32)=約404ドル」で、これはすでに達成済みです。
② 移動平均線は転換の途上
株価はMA5・MA25・MA75のすべてを上抜けており、短期トレンドは明確な上昇です。またMA25がMA75を上抜けておりゴールデンクロスになり、中期トレンド転換になります。
いわゆるパーフェクトオーダーが完成しており、中長期的にも買いやすいタイミングです。
③ ただし短期は過熱気味
株価423.36ドルに対しMA25が388.71ドル。乖離率は約+8.9%で、これは短期的にかなり伸びきった水準です。
8月の急騰は「戻りとしては十分な角度」であり、いったん押しを入れる可能性は高いと見ています。
また、4800ドルが一旦の上値ラインになっているためそこをブレイクするかどうかを見極めることが大事でしょう。
直近の最大リスクイベント
8月28日のジャクソンホール会議におけるパウエル後任・ケビン・ウォーシュFRB議長の講演と、7月PCEデフレーターの発表が最大の注目材料です。
タカ派的なメッセージや実質金利の再上昇があれば、8月の上昇に対する利益確定売りを誘発する可能性があります。
ポジションを持つなら、このイベントを跨ぐかどうかは事前に決めておくべきです。
参照:https://fu.minkabu.jp/chart/newyork-gold
4. まとめ
2026年8月のGLD上昇は、単なる利下げ期待ではなく、ドル安と米国の財政・国債市場への不安という「通貨の信認」がテーマになっている点が特徴です。
だからこそ、金利が高止まりしているのに金が買われています。
- 上昇要因:ドル安、米財政不安、ETF資金の流入再開、中銀の継続買い
- ファンダメンタル:GLDにPER・EPSは存在しない。判断軸は実質金利と資金フロー。主要行の年末予想は4,800〜5,500ドル(GLD換算442〜506ドル)だが、レンジ継続予想もあり見方は割れている
- テクニカル:ダブルボトム完成、MA上抜け済み。ただし乖離率+8.9%で短期は過熱
- 戦略:405〜412ドルへの押し目を分割で拾う。400ドル割れで撤退、383.60ドル割れは機械的に損切り
金は「安全資産」と呼ばれますが、今年だけで最高値から3割下落した資産でもあります。
安全=下がらない、ではありません。ポートフォリオの5〜10%程度に留め、株式や債券と組み合わせる分散のパーツとして使う。
また、銘柄選択の方法(スクリーニング)や株についての記事も書いているので参考にしていただければ!
https://blog-hero.com/

