今週の日本株市場の振り返りと来週の期待銘柄:地政学リスク相場と注目セクターは?

投資日記

2025年6月9日から13日にかけての週は、日本の株式市場がまさに岐路に立たされていることを浮き彫りにしました。

週前半は良好な経済指標を背景とした楽観論が市場を牽引しましたが、週後半には地政学リスクという古典的な「リスクオフ」要因が突如として市場を覆い尽くし、様相は一変しました。

この一週間は、セクター間のパフォーマンスの著しい乖離、目前に迫る中央銀行の金融政策決定会合が落とす影、そして市場の主要な変動要因として地政学リスクが再浮上したことなど、投資家にとって重要なテーマが凝縮されていました。

本レポートでは、このジェットコースターのような一週間の市場の動きの「なぜ」を深く掘り下げ、不確実性を増す来週以降の市場を航海するための戦略的な羅針盤を提示します。


週前半の上昇と週後半の急落:2025年6月9日~13日の市場レビュー

1.1. 週の取引動向:上昇から急落への軌跡

  • 月曜日(6月9日)~火曜日(10日):慎重ながらも楽観的な滑り出し
    • 週明けの市場は力強いスタートを切りました。日経平均株価は前週末の良好な米雇用統計を受け、7営業日ぶりに終値で38,000円の大台を回復しました。
    • この初期の強気相場は、主に2つの要因によって支えられていました。
      • 第一に、前週末に発表された米国の力強い雇用統計が、世界経済の底堅さに対する信頼感を醸成したこと。
      • 第二に、為替市場でドル円が一時1ドル=144円台まで円安に振れたことで、日本の基幹産業である輸出関連企業にとって追い風となったことです 。  
  • 水曜日(11日):週の最高値
    • 市場の上昇基調は水曜日も続き、日経平均株価は週の最高値を更新しました。
    • この日は、米国のハイテク株高の流れを引き継いだことに加え、円安が1ドル=145円台まで進んだことが支援材料となりました。
  • 木曜日(12日)~金曜日(13日):暗転
    • しかし、市場の雰囲気は木曜日を境に劇的に悪化します。市場は急激な売り圧力に見舞われ、日経平均株価は大幅に下落し、週末には再び38,000円の大台を割り込んで取引を終えました。
    • この急落の引き金となったのは、主に以下の3つの複合的な要因です。
      1. 地政学的ショック: イスラエルがイランの核関連施設を攻撃したとの報道が伝わると、リスク回避の動きが世界中の市場を駆け巡りました 。  
      2. 関税への懸念: 米国大統領が輸入自動車に対する追加関税の引き上げを示唆したことで、日本経済の根幹をなす自動車産業に直接的な打撃が及ぶとの懸念が広がりました 。  
      3. 円高への反転: 地政学リスクの高まりを受け、安全資産とされる円が買われ、為替レートは1ドル=143円台まで円高方向に振れました。これは、週前半の円安による追い風を完全に打ち消すものでした 。  

1.2. 主要指数の動向

この週の劇的な展開は、主要株価指数の値動きに明確に表れています。

以下の表は、日経平均株価とTOPIX(東証株価指数)の終値の推移をまとめたものです。

日付日経平均株価 終値 (円)前日比 (円)前日比 (%)TOPIX 終値 (ポイント)前日比 (ポイント)前日比 (%)
2025/6/938,088.57+346.96+0.92%2,785.41+16.08+0.58%
2025/6/1038,211.51+122.94+0.32%2,786.24+0.83+0.03%
2025/6/1138,421.19+209.68+0.55%2,788.72+2.48+0.09%
2025/6/1238,173.09-248.10-0.65%2,782.97-5.75-0.21%
2025/6/1337,834.25-338.84-0.89%2,756.47-26.50-0.95%

週初3日間の堅調な上昇が、週後半の2日間でほぼ打ち消されたことが一目瞭然です。

特に週末金曜日の下げは大きく、日経平均は一時600円以上値下がりする場面もありました 。  

1.3. ボラティリティの背景にあるマクロ要因

この週の市場の変動は、単一の要因ではなく、複数のマクロ経済的・地政学的な潮流が複雑に絡み合った結果です。

  • 米国の経済指標が示すパズル:
    • 週初の上昇を支えた米国の力強い雇用統計は、景気の底堅さを示唆し、FRB(米連邦準備理事会)による利下げが遠のく可能性を示唆していました。
    • しかし、週半ばに発表された5月の米消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回ったことで、インフレ鎮静化への期待が高まり、年後半の利下げ観測が再燃しました 。
    • この強弱入り混じるシグナルは、地政学的ショックが発生する前から、市場の根底に不確実性をもたらしていました。  
  • 地政学リスクプレミアムの再燃: イスラエルとイランの衝突は、市場に「リスクプレミアム」を再認識させました。最も顕著な反応を見せたのが原油市場で、WTI原油先物価格は木曜日に7%以上も急騰しました 。このエネルギー価格の高騰は、インフレ懸念を再燃させると同時に、世界経済への悪影響も懸念させます。同時に、金や安全資産とされる日本円への資金逃避(フライト・トゥ・セーフティ)が見られました。週前半の円安進行が、リスクオフ局面で一気に円高に巻き戻されたことは、日本株、特に輸出企業にとって大きな逆風となりました。  
  • SQ週がもたらす変動増幅: この週は、株価指数先物・オプション6月限の特別清算指数(SQ)算出を控えた週でもありました 。SQ週は、巨大なポジションの決済やロールオーバー(乗り換え)が集中するため、通常よりも市場のボラティリティが高まる傾向があります。この需給要因が、木曜日と金曜日に見られた価格の大きな振れを、さらに増幅させた可能性は高いと考えられます。  

この一連の動きは、現在の市場がいかに脆弱なセンチメントの上に成り立っているかを物語っています。

経済データというファンダメンタルズが土台にある一方で、たった一つの地政学的ヘッドラインが市場の方向性を暴力的に覆してしまうのです。

これは、市場参加者の強気な確信が実は薄弱で、外部からの衝撃に極めて弱いことを示唆しています。

市場はファンダメンタルズだけで動いているのではなく、恐怖と欲望がせめぎ合うナイフの刃の上を歩いているような状態と言えるでしょう。


セクター別動向:明暗を分けた勝者と敗者

週後半の全体的な下落にもかかわらず、セクターレベルで見ると、その影響は一様ではありませんでした。

地政学リスクという逆風を追い風に変えたセクターもあれば、直撃を受けて大きく沈んだセクターもあり、市場の内部構造が鮮明に浮かび上がりました。

2.1. 地政学の波に乗ったセクター

  • 鉱業 (+6.87%) および 石油・石炭製品 (+5.39%):
    • この週の明確な勝者です。これらのセクターの急騰は、中東情勢の緊迫化によるWTI原油価格の急騰と直接的に連動しています。
    • 原油価格の上昇は、探査・開発・販売を手掛ける企業の収益を直接的に押し上げるため、INPEX (1605)、ENEOSホールディングス (5020)、コスモエネルギーホールディングス (5021) といった関連銘柄に買いが集中しました 。  
  • 情報・通信業 (+2.16%):
    • 全体相場が軟調な中で、このセクターが上位に入ったことは特筆に値します。
    • この背景には、マクロ経済の動向とは一線を画す、個別の企業要因がありました。
      • gumi (3903): 2025年4月期の連結決算で、不採算タイトルの整理やコスト削減、ブロックチェーン事業の成長により、大幅な黒字転換を達成したと発表。
        • これが市場で高く評価され、株価は週を通じて32%以上も急騰しました 。  
      • ANYCOLOR (5032): こちらも好調な決算と、来期の力強い成長見通しを発表。
        • VTuber(バーチャルYouTuber)事業の圧倒的な収益力を改めて示し、株価は週に21%以上上昇しました 。  

2.2. 逆風に苦しんだセクター

  • 空運業 (-4.95%):
    • このセクターは、原油価格高騰とリスクオフ心理という二重の逆風に見舞われました。
    • 原油高はジェット燃料費の増加に直結し、収益を圧迫します。
    • これらの懸念から、日本航空 (9201) やANAホールディングス (9202) といった主要銘柄が大きく売られました 。  
  • 輸送用機器 (-2.30%):
    • このセクターの下落は、米国の自動車追加関税への言及が直接的な原因です。
    • 関税引き上げの可能性が示唆されただけで、トヨタ自動車をはじめとする大手自動車メーカーの収益見通しに大きな不透明感が生じ、株価の重荷となりました。  
  • 保険業 (-4.27%):
    • 保険セクターの下落は、リスクオフ局面における典型的な反応です。
    • 市場の不確実性が高まると、投資家は金融株を売却する傾向があります。また、国内の長期金利の低下が、運用利回りの悪化懸念につながった可能性も指摘されています 。  

2.3. 東証33業種 週間騰落率ランキング

この週のセクター間の明暗をより明確にするため、東証33業種の週間騰落率ランキング(上位5業種・下位5業種)を以下に示します。

順位業種名週間騰落率 (%)
【値上がり上位】
1鉱業+6.87
2石油・石炭製品+5.39
3情報・通信業+2.16
4海運業+1.69
5医薬品+0.74
【値下がり下位】
29鉄鋼-1.92
30輸送用機器-2.30
31非鉄金属-2.82
32保険業-4.27
33空運業-4.95

このランキングは、この週の市場の物語を雄弁に物語っています。

資金は明らかに、地政学リスクから恩恵を受けるエネルギー関連セクターへと向かい、燃料費の高騰や関税リスクに脆弱なセクターからは流出しました。

全体相場がマクロ経済や地政学的な恐怖に支配される中でも、情報・通信セクターのように、個別の企業業績という強力な材料があれば、逆風をものともせずに上昇できることが証明されました。

これは、トップダウンのマクロ分析だけでなく、ボトムアップの個別企業分析の重要性を改めて示唆しています。

投資家は、市場全体の下降局面で悲観一色になるのではなく、外部環境の変化に左右されにくい、独自の成長ストーリーを持つ企業を発掘することに活路を見出すことができるのです。


今後の針路:市場展望とセクター予測

3.1. 中央銀行ウィーク:2025年6月16日~20日の注目イベント

来週の市場の方向性を決定づけるのは、間違いなく日米の中央銀行の動きです。投資家は固唾を飲んで、その発表を待っています。

  • 日本銀行 金融政策決定会合(6月17日):
    • 今回の会合での政策金利の変更はないと見られています 。
    • 市場の最大の注目点は、会合後の植田和男総裁の記者会見です。
    • 特に、日銀が現在進めている国債買い入れの将来的な方針が焦点となります。
    • もし、市場の予想よりも速いペースでの買い入れ減額(量的引き締め)が示唆されれば、それは「タカ派的」と受け取られ、円高を誘発し、株式市場の重荷となる可能性があります 。  
  • 米国連邦公開市場委員会(FOMC)(6月17日~18日):
    • こちらも政策金利の据え置きが確実視されています。
    • 全ての注目は、同時に公表されるFOMC参加者の金利見通し(ドット・プロット)と、パウエル議長の記者会見に集まります。
    • 市場は、先日の軟調なCPIデータが示唆した「ハト派的」な傾斜が、ドット・プロットで追認されることを期待しています。
    • もし、予想に反してタカ派的な金利見通しが示されれば、世界的な株安の引き金となりかねません。
イベント名発表日国・地域注目ポイント
ニューヨーク連銀製造業景気指数6月16日(月)米国米国製造業の景況感を示す先行指標
日銀金融政策決定会合・政策金利発表6月17日(火)日本国債買い入れ方針と植田総裁の会見内容
米連邦公開市場委員会(FOMC)6月17日(火)~18日(水)米国ドット・プロットとパウエル議長の会見
米国 小売売上高 (5月)6月17日(火)米国個人消費の力強さを測る重要指標
日本 全国消費者物価指数 (CPI) (5月)6月20日(金)日本日銀の追加利上げ判断を左右するインフレ動向

これら重要イベントが週半ばに集中していることは、市場のボラティリティの「チョークポイント(隘路)」を形成します。

日米という世界第1位と第3位の経済大国の金融政策の先行きを左右する極めて重要な情報が明らかになるまで、合理的な投資家は大きなポジションを取ることを躊躇するでしょう。

これは、週前半は商いが細り、方向感の乏しい展開となり、発表後には一気にボラティリティと出来高が急増するという、典型的なイベント前の市場パターンを示唆しています。

3.2. 神経質な市場における投資戦略

来週の日経平均株価の予想レンジは、専門家の間では36,500円~38,500円と、非常に広い範囲で見られています。

この広いレンジ自体が、地政学リスクと金融政策の両面から来る大きな不確実性を反映しています。  

このような環境下では、慎重な姿勢が求められます。

しかし、先週の相場が示したように、市場全体が軟調な中でも成長機会は存在します。

したがって、マクロ経済のノイズとの相関が低い、独自の強力な成長ドライバーを持つセクターや企業に焦点を当てることが、有効な戦略となります。

3.3. 予測:来週以降の有望セクター

以上の分析を踏まえ、来週以降、そして中長期的に株価の伸長が期待できるセクターを予測します。

  • 1. 金融(特に銀行): これは、中長期的なコア保有銘柄として位置づけられます。
    • 投資テーマ: 日本のマイナス金利政策の時代は終わりました。
      • 日銀による金融政策の正常化は、緩やかではあるものの、長短金利差(イールドカーブ)の拡大を通じて銀行の利ザヤ改善に直結します。
      • これは銀行セクターの収益性にとって、構造的な追い風となります。また、新しいNISA(少額投資非課税制度)の拡充により、国内の個人投資家の資金が、三菱UFJフィナンシャル・グループ (8306) のような大手優良金融株へ向かっていることも支援材料です 。  
  • 2. 防衛: このセクターは、世界の安全保障環境の構造的変化を背景としたテーマです。
    • 投資テーマ: 中東での紛争は、高まる地政学リスクの一端に過ぎません。日本政府が防衛予算を大幅に増額する方針を明確にしていることは、国内の防衛産業にとって、長期的かつ安定した需要が見込めることを意味します 。  
    • 注目企業: 三菱重工業 (7011)、IHI (7013)、川崎重工業 (7012) といった大手防衛関連企業が、この恩恵を直接的に受けると考えられます 。  
  • 3. AI・情報技術(選別的なアプローチ): セクション2の分析から得られた教訓を活かす分野です。
    • 投資テーマ: AI革命は、長期的に強力な成長ドライバーであることは間違いありません。
      • しかし、全てのテクノロジー企業が等しく恩恵を受けるわけではありません。
      • ここでの戦略は、単にインデックスを買うのではなく、独自の技術、強固な市場地位、そして何よりも「利益を生み出す実績」を持つ企業を選別することです。
      • 先週のgumiやANYCOLORの株価急騰は、このアプローチの有効性を示す好例と言えるでしょう 。  
  • 4. エネルギー(戦術的な投資): このセクターは、短期的なイベントドリブン(出来事主導型)の機会として捉えるべきです。
    • 投資テーマ: 現在のこのセクターの魅力は、原油価格に上乗せされた地政学リスクプレミアムにあります。中東の緊張が続く限り、これらの銘柄はさらに上昇する可能性があります。
    • 注意点: これは「買って長期保有」するセクターではありません。投資家は地政学的な状況を注意深く監視する必要があり、緊張緩和の兆しが見えれば、これらの銘柄は得た利益を急速に失う可能性があることを常に念頭に置くべきです。

この分析は、現代の投資家にとって二つの異なる、しかし両立しうるアプローチが存在することを示しています。

一つは、日銀の政策を背景とした金融株や、地政学を背景とした防衛株のように、トップダウンのマクロ経済予測に基づいた投資。

もう一つは、特定のテクノロジー企業のように、マクロ環境とは独立した企業固有の業績に着目する、ボトムアップの投資です。

参照:https://kabutan.jp/


結論:現代の投資家への提言

今週の市場は、投資家に対していくつかの重要な教訓を突きつけました。

第一に、市場センチメントは極めて敏感であり、地政学的なニュース一つで瞬時に方向転換しうるということです。

第二に、当面の市場の行方は、日銀とFRBという二大中央銀行の声明に大きく左右されるということです。来週はボラティリティの高まりを覚悟すべきでしょう。

このような不確実な環境下で最も強靭な投資戦略は、外部環境の変化に左右されにくい、強力で、持続可能で、かつ独立した成長ストーリーを持つセクターに焦点を当てることです。

投資家には、常に警戒を怠らず、データに基づいた判断を下し、戦略的な焦点を維持することが求められます。

また、銘柄選択の方法(スクリーニング)や株についての記事も書いているので参考にしていただければ!
https://blog-hero.com/